Concept & Process

「笹木かおりと行く!アーセナル観戦ツアー」通称「笹旅」は、HIS史上初めてツイッター上でのユーザーコミュニケーションから生まれた旅行商品です。このプロジェクトでは、ツアー企・販売促進/集客・催行中のSNS発信・コンテンツ制作・リサーチ・インフルエンサーマーケティングを含むデジタルマーケティングなどクリエイティブ全般を担当しました。

このプロジェクトを通して4つのことを達成しました。

  • 旅行会社の存在意義を再提示し、ユーザーに寄り添った取り組みを行いました。ユーザーのニーズに合わせた旅行商品を提供することで、他社では実現できない付加価値を提供しました。
  • SNSコミュニケーションを通じて、サポーターと共に旅行商品を共同で作り上げました。ユーザーからの意見や要望を積極的に取り入れ、彼らと協力して魅力的なツアーを創り出しました。
  • SNSでの更新に力を入れツアーハッシュタグがトレンド入りし、注目を集めました。ユーザーはハッシュタグを使ってツアーに関する情報をシェアし、広範なユーザー層にアピールすることができました。
  • ツアーだけでなく、オフラインイベントや他の協力企業との連携によるYouTube動画展開も行いました。オフラインイベントでは、参加者と直接対話し、より深い関係を築く機会を提供しました。これにより、さまざまなメディアを通じてツアーを広く紹介しました。

女優でありアーセナルサポーターとしても知られる「笹木かおりさんと」と現地ツアーに参加する提案がツイッターを通じて届いたのは12月3日でした。

この提案と共に、ツイッター上でのアーセナルサポーターの声をまとめ、実現できれば大きな宣伝効果があることを担当部署にプレゼンしました。社内でGOサインが出た後は、笹木かおりさんサイドとの協議を重ねながらツアーの内容を決定し、翌年1月19日に販売を開始しました。

通常、ツアーの企画・造成にはさまざまな要素が絡み合い、約3ヶ月程かかるのが一般的です。しかし、サッカーシーズンに関連する要素が存在したため、1ヶ月半という短期間でツアーの企画・立案・販売を行うことにしました。この期間内に、イベント会場のリサーチや下見、配布資料制作のためのフィールドワークなどを実施し、それらをデザインに反映させました。

ツイッター上の提案からツアーを作り上げるという試みは、これまでの経験とは異なる新しい挑戦でした。データの不足や懸念事項もありましたが、現代のオンラインの台頭によって旅行会社の存在意義が問われる中で「自分でもできるチケット予約、でもHISにお願いしたくなるような企業でありたい」「旅行会社にしか実現できないツアーを提供する」という信念を持っていました。

ツイッター上の提案には多くの意見やアイデアが寄せられ、それらを総合的に考慮しながらツアーの内容を決定していきました。HISとしてのプロフェッショナリズムと創造力を活かし、参加者が自身ではできないような特別な体験を提供することを目指しました。

販売が開始されると、アーセナルサポーターだけでなく、他のクラブのサポーターの間でも大きな話題となりました。ツアーに関する相談のツイートが他のクラブのファンからも寄せられ「うちのクラブでも同様のツアーを企画できないか」という声が多くありました。

さらに、アメーバブログや株式会社Gunosy(グノシー)のニュースなどウェブメディアでも取り上げられ、業界を越えた様々な著名人からもツイートをいただくことがありました。このような広範な関心と注目は、このツアーが多くの人々にとって興味深いものであることを示していました。

2019年に第1回目のツアーが開催され、その後2023年現在までに第3回目までのツアーが成功裡に開催されました。初回のツアーでは十数名の参加者でしたが、回数を重ねるごとに参加者数は倍以上に増え、現在でもHISのシリーズツアーとして非常に人気があります。

このツアーの人気が継続している一つの要因は、参加者のSNSを通じた広がりです。参加者が自身の素晴らしい体験を友人や知人に共有し、彼らも参加したいという意欲を高める効果がありました。

参加者に送る書類や封筒は単なる手続きの一部ではなく、旅行の一環として楽しめる要素を盛り込むことで、参加者のワクワク感を高め、ツアーへの期待をさらに高めることができました。これらの工夫によって、参加者はツアーを待ち望み、旅行前後の書類や封筒を思い出の一部として大切に保管することができます。

デザインについては、ツアーの進行や参加者の反応に合わせて柔軟に対応しました。印刷をギリギリまで延ばし、ツアー中の出来事や参加者の声を取り入れた即興性のあるデザインを展開しました。さらに、これらのデザインをSNS上で発信し、オフラインとオンラインを融合させながらコンテンツ制作を進めました。これにより、参加者だけでなく広い範囲の人々にもツアーの魅力を伝えることができました。

参加者にプレゼントされるサイン色紙を始め配布物にはHISのコーポレートカラーである青を一切使わず、アーセナルのクラブカラーである赤を基調にデザインしました。コーポレートカラーを変更することは原則避けるべきですが、青色を使用すると他クラブを連想させる可能性が高く「アーセナルサポーターが喜ぶのはどちらだろうか」というお客様の視点に立った結果、デザインも柔軟に対応することを決めました。

この決断には少し不安もありましたが、SNSでも話題となり「お客様に寄り添い、細部にまで気を配っている」というポジティブなフィードバックをいただきました。

ツアーには、笹木かおりさんはもちろん、参加者の皆様、そしてツアー企画段階から見守っていただいたユーザーの皆様がハッシュタグを使ってツアーを盛り上げてくださいました。

このツアーのキーポイントは、主催者側、参加者、参加できなかったユーザーが一体となって成功を作り上げたことです。これまでのHISの歴史にはなかったものであり、オンラインとユーザーとのコミュニケーションを融合させ、全く新しい旅行会社の在り方を示す機会となりました。

一方通行的に企業が提供するのではなく、企業とお客様(ユーザー)がコミュニケーションを取り、リアルタイムで変化していくツアーを作り上げたことは大きな功績といえます。それを実現させたツイッターというプラットフォームの管理をしていたので、この経験は今でも大きな糧となっています。

このツアーを通じて得られたものはデータだけではなく、お客様からの「他の企業では相手にしてもらえないかもしれない、でもHISならやってくれる」という大きな希望です。リスクはたくさんありましたが、実現したことによって当初のゴール設定していた「旅行会社にしか実現できないツアー」に「HISだからできる」という付加価値をつけて達成することができました。

ツアーにはできる限り同行しリアルタイムでSNSを更新しました。

またブログなどで詳細を投稿し、潜在顧客へリーチを行いました。参加できなかったサポーターたちもSNSを通じてツアーを楽しむことができ、ハッシュタグの活性化にも力を入れました。

第2回の開催時には、「#アーセナル観戦ツアー」というハッシュタグがツイッターでトレンド入りし、第1回の参加者数を3倍に増やすことができました。日程や料金の制約により参加が難しいアーセナルサポーターの方々も、SNSを通じて全員が1つのチームであることを実感していただけたのではないかと思います。

ロンドン現地では笹木かおりさんを知っている香港人グループと遭遇したり、ツアー参加者ではないアーセナルサポーターからもSNSでの写真投稿があったり、参加者・企業だけではなく様々なユーザーと関わることができました。

このツアーでは、参加者が単独で参加していることが多いのですが、笹木さんの存在や共通の趣味であるアーセナルへの熱い思いが、参加者同士を結びつけるきっかけとなりました。ツアーが進むにつれて、互いに打ち解け、交流を深めることができました。そして、解散の時には、まるで友達や戦友のような雰囲気が漂っていました。

体験を通じて、参加者同士の絆が深まり、特別なつながりが生まれるのです。それが日本で「笹旅」に関連するイベントが開催されるたびに、まるで同窓会のような雰囲気になる理由かもしれません。参加者同士が再会し、思い出を語り合い、新たな旅の計画を練る場として、笹旅は愛され続けています。

このようなコミュニティの形成は、ツアーの成功を反映しているといえます。参加者同士が一体となり、共通の経験や感動を共有し、互いに支え合うことで、ツアーは単なる観光旅行を超えた特別な体験となりました。

PROJECT RESULTS

ツアー終了後も、参加者同士の交流は続いています。参加者たちはSNSやオンラインコミュニティを活用し、お互いに連絡を取り合ったり、旅行の思い出を共有したりしています。この交流の中から、さまざまなイベントやミーティングが派生して開催されています。

1つのツイートから始まりそれが現在ではオフラインとオンラインを超えた形で参加者たちに親しまれていることは、ツアーの魅力と価値の証です。参加者たちはツアーを通じて共有した特別な経験や思い出を持ち、それを通じて結ばれたコミュニティの一員として関わり続けています。また、オンラインを利用した交流の拡大は、地理的な制約を超えてつながりを持つことを可能にしています。

株式会社フロムワンのサッカー情報サイト「SOCCER KING(サッカーキング)」編集部の国井さんが同行され、ツアー中の様々な場面やエピソードを取材し、参加者へのインタビューを行いました。その結果、魅力的なコラム記事と動画が制作され、サッカーキングの読者や視聴者に対してツアーの魅力や現地の雰囲気を伝えることができました。

このようなメディアの取材やコンテンツ制作は、ツアーのPRと参加者の体験を広く知らせるために重要な役割を果たしました。国井さんの専門的な知識と情熱が、ツアーの魅力を的確に伝えました。サッカーキングを通じて公開されたコラムやYoutube動画は、ツアーに参加しなかった人々にもその魅力を伝える重要なツールとなりました。これによって、「笹旅」はますます知名度を高め、興味を持った人々に新たな参加者を呼び込むことができました。

さらに、これらのメディアコンテンツはツアーの魅力を長期的に伝えることができるため、今後もツアーの人気と認知度の向上に寄与すると予測できます。

参加者の中にはTwitterだけではなく、自身のブログに旅の記録を書き綴り公開する方々もいました。これにより、参加者の個々の視点や感じたことがさまざまな形で表現され、多角的に伝わることとなりました。これらのブログ記事は、ツアーに参加していない人々にも参加者の視点から旅の様子を伝える重要な情報源となりました。

また「笹旅」のフォトブック制作に向けてクラウドファンディングを開始。

多くの方々に「笹旅」の魅力や意義を伝え、フォトブックへの共感と支援を呼びかけました。SNSやメディアを通じて情報を発信し、プロジェクトの目標金額や制作内容を詳細に説明しました。その結果、たくさんの人々からのご協力をいただくことができました。

ツアーの道中での写真を一冊にまとめたフォトブックは、参加者の貴重な思い出や感動が詰まった作品となりました。みんなで歩いたロンドンの風景、サッカー観戦、そして参加者同士のやりとりが、フォトブックを通じて再び蘇ります。

日本では、不定期に「笹旅」に関連したイベントが開催されており、それがツアー後も参加者たちの交流の場となっています。

オンラインから始まった「笹旅」は、そのつながりをオフラインのイベントでさらに深めています。「笹旅」のツアーは単なる旅行だけでなく、参加者同士の結びつきや交流を重視したコミュニティの一環として成長しています。オンラインとオフラインを融合させたツアーの形式が、参加者たちにとって特別な経験となり、長く続くつながりを築いています。

このツアーを皮切りに、サッカーサポーターだけでなく、多くのユーザーがSNSを通じて旅行に関する相談を寄せてくるようになりました。

SNSを通じた旅行相談は、より多くのユーザーにとって利便性が高く、情報の共有や意見交換がスムーズに行えるメディアとなりました。旅行会社としては、この新たな形式に対応することで、より多くのユーザーに対して価値のあるサービスを提供していくことが求められています。そんな現場に立ち会いリアルタイムでツアーに関われたのはとても光栄な経験でした。